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星空のように

戦前の中国の描写はとても上手

どこに行っても“自分”はついてくる
自分を変えたくて、すべてを捨て去って逃げても、絶対についてくるもの、それは自分。
自分を一度壊して、ボロボロになってからもう一度自分を作るしかない。
主人公の有子のように追い詰められた経験は、女性なら誰でもあるはずだ。

自分自身が不等号で計られるのは耐えられないが、自分自身だって他人をそういう見方をしていないとも限らない。だから他人を不等号で見る側に自分が回る…そういう発想は世の中にあふれているけど、それを続けたらスーパーフリーみたいになってしまうんじゃないの?と思った。
どこまで逃げてもついてくる過去の自分=忘れられない出来事、という描写が、PTSDに通ずるような気もした。

一度死を決意したものの、その後も生き続ける質に静かに心を動かされた。
有子にもいつかは、質のような静かな強さが宿ってほしい。
ボロボロになったことのあるすべての人に読んでほしいです。

玉蘭は白木蓮。会いたくて会いたくて?
最初のページを読み始めたとたんに物語に引き込まれていました。
上海のシーンなんてホントに自分がそこにいて呼吸してる気分になるぐらい。
男性と女性の恋愛に対する考え方の違いの描き方がいいですね。
現代の有子と松村、1920年代の質と浪子
二組の男女が織りなす人間模様が重なりあい「嘘」と共に絡み合う。
『果てに来てしまったと思ったら、どんどん知らない場所に行けばいいんだよ。
それが最果ての最前線になるだろうさ。船乗りは皆、そう思う』
物語の初めで有子に対し大伯父の質が現れて語る台詞
このお話も読んでいるそのページが最果ての最前線。
2つの恋がどう重なってくるのか
読者はその最果ての最前線でドキドキする構成になっています。
いい作品ですが読後感がちょっとね。。。
ってことで★は3つ
これも男女の感じ方の違いなのかしらん

桐野作品の外れ、人物描写が弱い、肉親を描いたせいか?
面白くなかった。理由は三つ。主人公への感情移入が出来ない。桐野作品の主人公は皆心の中に毒を持った悪い人だが、どこか徹底しているために、読者の心の闇と共鳴しはじめ、いつのまにか感情移入して読者は読んでいるが、本篇の登場人物は、どこにでもいそうな人物ばかりで、退屈。従って、感情移入が出来ない。二つ目は、誰が主人公かはっきりしない。最終的には、著者の大叔父がモデルであった質とわかるが、記述の量、質とも少なく、影も薄い。三つ。女主人公が最後に売春婦になるのだが、どうしてそうなったのか、良く分からない。グロテスクとどうしても比較してしまうから、何故?と理由を知りたくなる。しかし、彼女は実は狂言回し役であって、主人公ではないから、そこまで書かなかったのだろうか。

戦前の中国の描写はとても上手いと思うが、いまひとつな感じ。

玉蘭 (文春文庫)
桐野 夏生
by yukaning1 | 2010-10-06 23:39 | 読書