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星空のように

頭で読み、本能で感じ、肉体に味あわせる力作

純粋に小説として楽しんだ
作家・林芙美子の第二次世界大戦中の体験を描いた作品。

舞台は昭和18年でまだ日本が戦争に勝っていた時期であるが、主人公の芙美子を始めとする数人の女性作家は、軍の依頼によりシンガポール・インドネシアといった東南アジアの占領地域を訪問することになる。芙美子は行きの船中における船員との行きずりの愛欲や、現地で再会した数年来の愛人の新聞記者・鈴木謙太郎との交情を重ねていく。

恥ずかしながら林芙美子が放浪記の作者ということも今回知ったぐらい、どのような作家であるか予備知識が全くなかったので、40を超えても女として生きる女性作家を描いたフィクションとして読んだが、小説として純粋に楽しめた。メインテーマではないが、言論を統制するこの時代の嫌らしい息の詰まるような状況もよく描かれており、言論の自由のありがたさも久し振りに感じた。


林芙美子に憑依する桐野夏生の妖しい魅力
「IN」における島尾敏雄「死の刺」の文体模写を凄いと思ったが、今回は林芙美子になりきってしまった!桐野夏生、凄すぎる。林芙美子の隠されていた私的な記録、という形で、林芙美子の作品としてのフィクションを書くという発想も、それを書く勇気も、他の作家にはないものだろう。
「IN」でも感じたが、桐野氏にとって小説とは、純粋な芸術作品でありながら、編集者と共同でつくりあげるものだ。プロの女流作家ならではの意識で、飾りのない真実だと思う。だからこそ、裏切られた時の苦しみは、女として作家としての全てを全否定された、地獄の苦しみとなる。今回の作品では戦時下の作家活動という深刻なテーマも絡み、描かれるのは、まさに血を吐くような命がけの恋愛であり、創作なのだが、対する男のほうは、それだけの覚悟があったのだろうか。編集者に見放される芙美子の凄絶な苦しみが作者の痛みと重なって、熱く揺さぶられた。と同時に、他の女流作家をともすれば「甘い」と思ってしまう芙美子の作家としての強さ、したたかさも、桐野氏本人に通じる魅力だ。
 綿密に調べ上げた史実や、風俗の柱をきっちりと構築した上で、自在に羽ばたく創造力、芙美子に憑依する作者の語りの強度に圧倒させられ、一気に読んだ。
 終わりのほうで、編集者・謙太郎とばったり会う場面にはっとさせられた。この、何気ない場面が書かれたことで、あれだけ激しい恋愛の末、子どもまで身ごもったのに、ひとりで産み、育て、小説を書き、死んでゆく芙美子の姿に、女の怖さをまざまざと見たからだ。きっちりと閉じられる物語が、フィクションとは思えず、鳥肌の立つような思いで読み終えた。

頭で読み、本能で感じ、肉体に味あわせる力作
実在の作家の幻の作品か?という設定がどれだけ魅惑的でしかしチャレンジングなものであるか、文学を志す者や小説を愛する者には分かってもらえると思う。私の5つの★の一つは先ずこの点にであり、逆にこの点や林芙美子や作品の描かれた時代背景に興味や知識のない方なら、絶対につけない★とも言える。
私自身、作者が林芙美子の文章を書ききるための労苦やその成果を十二分に受け止める素養があるわけではないが、平たく言えば「昭和の前半の桐野夏生の過激版」が描く世界と勝手に解釈して、本作に一気にのめり込んでいった。
この作品が作者の過去のテーマや内容に似ているとの評は表面的に過ぎる。作者は、己に通底する「ナニカアル」を芙美子に感じたからこそ、この作品を描き切ったと解する方が、この作品を素直に深く味わえるだろう。つまり、冒頭のような頭で読むアプローチが出来ずとも、他の桐野ワールド同様に、本能で感じ、肉体に味あわせることで、改めて頭の中に読むべきナニカが現れるはずだから。
とにかく読み切った後に己の中のナニカアルが感じられたなら、虚実の狭間にこそ本当のナニカがアルであろう本作の、実在の人物や史実を調べていって欲しい。そこにないものに、芙美子は、そして、作者は何を感じたのか?
実に味わいの深い作品だと思う。一読して★を5つにするのではなく、★が5つになるまで読み重ねる作品ということ。

ナニカアル
桐野 夏生

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# by yukaning1 | 2010-10-04 23:47 | 読書

なんだかすごくまたニシノくんに出会いたくなった

距離を保つこと。
傷つかぬよう、
愛さぬよう。

他人の心の中に入り込む術を知っていても、
のめりこまないのだ、彼は。
いつも距離を保ちながら接する。
その距離が相手にとって心地よかったり、違和感を感じさせたり。

友人関係でもうまく溶け込んでいると思われている人ほど実は悩んでいるのかも。
「どうしてきちんと人とつながれないんだろう」と。

そんなことを思った。

こういう設定が好き
いろんな女性の立場から、ニシノユキヒコが語られます.
ニシノユキヒコという人は一人だけど、相手の女性によってそれぞれ違う関係が、ストーリーが生まれて面白いです.

一つの出来事(あるいは人物)が違う人の立場からそれぞれ語られるお話は大好き.
江國香織さん&辻仁成さんの「冷静と情熱の間」のように.

川上弘美さんの本は初めて読みましたが、とても好きになりました.
興味深く一気に読めて、おすすめです.

ニシノくんに出会いたくなりました。
本当に異性を愛するってどういうことだろう
ニシノくんはそれがわからないカワイソウなひとということになっているけど

本当にを愛するってどういうことなのかわかっている
カワイソウではないひとって
どれくらいいるんだろう

私には大好きな恋人がいるけど
昔今の恋人とは別に
何回か遊んで抱き合っただけの人だったけど
すごく大好きなひとがいた

私のなかでもう会うことのない彼は
私にとっての「ニシノくん」だと
「ニシノくん」にぴったりだと思う

愛してはいなかったけど
すごく惹かれたひと
そして会えなくなったひと

またニシノくんに出会いたくなった

そしてこの10人の女性みたいに
ニシノくんとの特別な恋の思い出を
飴玉を口で転がすみたいに楽しみたい

ニシノくんはこの10人の女性のうち
誰が一番だったのかな

私は死ぬ前に会いに来てくれる女性になりたい

今の彼には申し訳ないけど
この小説を久しぶりに読み返して
なんだかすごくまたニシノくんに出会いたくなった


ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)
川上 弘美
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# by yukaning1 | 2010-10-04 16:35 | 読書

結末は拍子抜け

壮大なるプロローグ
レースの流れは詳しく取材もされてるみたいで問題はありませんが主人公たるチカの人間くささはさっぱり表現出来ていないと感じましたまるでサイボーグみたい「誰が彼の止まってしまった心の時間を動かせるのか」「石尾豪から託された物をどのように昇華してゆくのか」という所をエデンでは表現してない所で これは次に繋がるプロローグと思ったしだいです

サクリファイスの呪縛
 「エデン」の前作である「サクリファイス」に魅了され、文庫になるのを我慢できず、
ハードカバーで購入しました。「サクリファイス」同様、いい意味でも悪い意味でも日本人らしい
白石さんに感情移入でき、本作品も本当に楽しませていただきました。自分の勝利を捨ててまで、
エースのために力のすべてを注ぐ白石さんに感動したのは自分だけではないと思います。

 評価ですが、スポーツ青春の視点から語ると前作同様面白かったですが、ミステリー小説としては
言い方が悪いかもしれませんが、結末は拍子抜けだったため星3つ評価とさせていただきました。
前作のように、自分の予想を超え二転三転するような結末はなく、ありきたりな結末に落ち着いたのが、
残念でした。

秀逸(自転車小説として)
ミステリとして読むには、前作と比較してもやや力不足。

ただし、全編を通して描かれる"グラン・ツール"ツール・ド・フランスでのレースの駆け引きは秀逸。
ロードレースの魅力というか、奥深さをよく描けていると思うし、チカの「アシスト」としての役割なり、
彼の心意気みたいなものがよく伝わってくる。

彼の心意気が、このグラン・ツールをして「楽園」と言わしめているのかもしれないし、
前作から通じるポイントなのだと思う。

エデン
近藤 史恵

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# by yukaning1 | 2010-10-04 14:12 | 日記

傷ついた恋を生身の言葉で書く

井形さんのプリズム
女性の向上心を読んで、書店の話題書に積み上がっていたので迷わず買いました。

ちょっとイメージ180度違うくないですか!?う?む。

これが本当だとしたら女性はかくも付き合う男によって変わるものなのだとちょっと斜め読みです。

大好きなシーンは、銚子電鉄に向かって二人が走るあたり。

久々泣いてしまいました。

大人の恋というより、大人でも初恋のような恋愛ができるんだと登場人物の会話に200%ラブモードです。

自分の過去と重なって
頼りないのに、確信がもてないのに、人を好きになるってこと。

いけないことかな、とずいぶん悩んでいたときにこの本を読み、とっても勇気づけられました。

そうだ、そうだ。

結婚すると決めきれなくても一緒にいることで自分が幸せならいいじゃん。

そんな風に温かく背中を押された感じです。

ありがとう。

待ってた著者の新しい世界
井形慶子のイギリスのエッセイは出るたびに買っていた。

いつもそれなりに、発見や考えるヒントがあってすごいと思う。

本書は、井形さん自身の等身大的恋愛エッセイ。

いつもの理路整然とした口調とは違う描写に、どんどん引き込まれいつの間にか、自分自身が彼女と同化していった。

傷ついた恋を生身の言葉で書く。

捨てられる側と、捨てる側の言い分。

払ってもまとわりつく、年上の完璧な恋人の来訪。

そこに行き着くまでに、愚直に生きる彼女(主人公)の哀れさや、やさしいまなざしを淡々と書き込みつつ話は意外な方向に進む。

不気味な気配に彩られ。

前作があるというので、早速注文した。

一見、パワフルに生きる女性の内側。

ファンとしては好奇心いっぱいで読んだが、恋愛の本であり、一人の女性がなぜ、息もつかず、本を書き、海外に飛び立つのか底にある彼女の孤独や寂しさが伝わり、深く考えさせられた。

別れた恋人、再婚までの道など著者にはこれからも、もっと本音の本を書いてほしい。

約束のない日曜日井形慶子

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# by yukaning1 | 2010-10-03 22:37 | 読書

自然に涙が溢れ出てくるくらいに心に響きます

やっと待望のテンペストが収録されました。

フジコの十八番の曲で今までのCDに唯一収録されなかったテンペストがやっと収録されました。
もともとベートーベンやショパンなど得意とする曲を沢山持っていますが、今回のCDは、作曲者のなかから選別されていて、どの曲もかなり完成度の高い曲に仕上がっています。
CDのイラストもフジコの大好きな天使の絵で飾られていますのでジャケットだけでなく開けた時の嬉しさといったらフジコファンにはたまりません。


待ってました

昨年,フジコ・ヘミングのピアノソロリサイタルを聴いた中で
ベートーベンのテンペストが特に気に入りました。

それから
テンペストが収録されたアルバムの発売をずっと待っていました。

そして今回『Fujiko』が発売され,1曲目にテンペストが収録されて
います。

自然に涙が溢れ出てくるくらいに心に響きます,感動します。

なんだかんだでお気に入りです
以前のCDとほとんど曲がかぶっているので若干買おうか迷ったのですが、
フジコさんのファンでもあるし、以前の録音からどう演奏が変わったのか興味があったので購入。
感想としては以前の録音のほうが良かったというのもあれば、さらに音色の深さが増したと感じる演奏もあって一長一短といったところです。

特にパガニーニ練習曲の6番は、DECCAの「雨だれ」にも収録されていますが、変奏によって前回より良い、悪いの違いが感じられました。

(あくまでも個人的に、ですが)
初録音の華麗なる大円舞曲は普段聞きなれている演奏とは違って面白かったです。


普通派手に終わらせることの多い曲ですが、フジ子さんはそっけなくラストの音を弾いています。

以前のCDでもこういう表現がいくらかありますが、これも素敵だな、面白いな、と思わせてくれるのがフジコさんの魅力でもあると思います。
久しぶりのフジコさんのCDでしたが、全体的には「あ、全然衰えていないな」と思いました。


細かい音の抜けや技術面の粗は素人耳でも気づきますが、それを補って余りある音のふくよかさや暖かさは健在、むしろさらに増してると感じました。


フジコ・レーベル設立ということで、次回のCDにも期待したいです。
Fuzjko
フジコ・ヘミング

ダコタ
# by yukaning1 | 2010-10-03 20:24 | 音楽